赤字(欠損金)で前年の法人税が還付できる3つの条件と注意点

法人で利益を出して法人税を支払う。これは普通のことですが、赤字になっても支払った法人税は戻ってこないということにはなんだか納得できないと思ってしまうことはありますよね。

実は支払った法人税は絶対に還付されないわけではありません。

「3つの条件」を満たしていれば法人税は還付される可能性はあります。

本日は、この支払った法人税が還付される3つの条件をお伝えしていきます。

1.今期の決算が赤字で繰越欠損金が出ていること

前期の決算は黒字で、今期の決算が赤字で繰越欠損金が発生した場合は「欠損金の繰戻しによる還付」の制度が活用できます。

これは、前期において黒字で法人税を支払った法人が、今期は業績が振るわず、赤字になってしまった場合は、前期に納付した法人税の還付を請求することができる制度です。

したがって、法人税を還付する第一条件は「前期は黒字、今期は赤字で欠損金が発生する」ということです。

業績の波が激しい法人にとっては非常に助かる制度ですよね。

2. 資本金が1億円以下であること

2つ目の条件は、資本金が1億円以下であることです。

つまり、大企業には繰越欠損による法人税の還付は認めないが、中小企業にはこの制度で支援をするということです。資本金が1億円を超える会社ですと、体力もあるため、赤字でも救済はないということだと感じています。

ただし、 資本金が5億円以上の親会社の100%子会社等である場合には対象となりません。

また、青色申告で期限通りに申告していることが前提条件となります。通常、ほとんどの法人が期限通りに青色申告しているため、問題はないとは思いますが、繰越欠損金による法人税の還付などの制度が活用できないと非常に公開されると思いますので、申告はしっかりと期限通りにしましょう。

加えて、当たり前のことですが、繰越欠損金による法人税の還付( 欠損金の繰戻しによる還付請求書)は、しっかりと申告・提出しなければ還付を受けけられません。還付を受けられる場合は、顧問の税理士へ相談し、しっかりと申告をしましょう。

3.故意に赤字にしていないこと

3つ目の条件は、この赤字(繰越欠損金)による法人税の還付 を行うと税務調査の対象になりやすいという噂があります。これは、この還付制度は本当に経営悪化をした法人を救済・保護することを目的とした制度であるため、故意的・計画的にこの制度を利用して節税を行うことを防ぐためです。

例えば、あえて事業には活用しない資産(資産性の高い中古の自動車など)を購入して減価償却を大きく計上すること、翌年かかる費用を1年分前払いで支払い経費計上すること、交際費を期末に異常に使って経費計上すること、保険・オペレーティングリースを借り入れをしてまで加入し、あえて大きく赤字を計上すること、などで赤字(欠損金)を作ると、そのことを指摘され、合理性などを問われるかもしれません。

相当計画的に上記のような例で取り上げた手法で赤字を作って還付を受けても、合理性などが説明できれば指摘だけで終わるかもしれませんし、実際に将来への投資として広告費などを打っている場合などは経営上の判断のため、指摘もしずらいかもしれません。

ただ、あくまでもこの 「欠損金の繰戻しによる還付制度」 は故意的ではなく、致し方ない経営悪化による赤字の出てしまった法人のための制度であることをご理解ください。

欠損金の繰戻しによる還付制度の注意点

この制度の注意点は以下の3点です。

①前年支払った法人税以上の還付はなく、赤字の分しか法人税の還付はない。

例1:前年度経常利益2000万円・法人税500万円、今年度経常損失3000万円の場合

前年支払っている法人税は500万円なので、今期の損失が3000万円でも還付されるのは500万円が上限となります。

例2:前年度経常利益2000万円・法人税500万円、今年度経常損失1000万円の場合

前年納めた法人税は500万円ですので、そこに【今年度の経常損失÷前年度の経常利益】を掛けた金額が還付されます。

500万円×1000万円/2000万円=250万円

* これは、単純な計算ですので、正確な計算は顧問税理士さんへお願いしてください。

注意点①の例の計算では還付金額をわかりやすくするために簡単な数字にしていますが、注意点②で触れる法人住民税では法人税のように還付ではなく、繰越控除で計算します。

*法人税の簡単な解説

法人税は法人が支払う税金の1つです。

よく法人実効税率という法人は支払う利益にかかる法人税の累計の税率があります。法人実効税率=法人税+地方法人税+法人住民税+法人事業税です。

例えば、 平成28年4月1日から平成29年3月31日までに開始する事業年度の資本金1億円以下の普通法人の場合は 23.4%(法人税)+23.4%×4.4%(地方法人税)+23.4%×12.9%(住民税)+9.59%(事業税)=37.04%となります 。

還付される金額、軽減される金額、法人で支払う税金の計算はしっかりと税理士さんへ確認をしましょう。

②還付されるのは法人税のみ

この「欠損金の繰越しによる還付」制度は、法人税のみに適用されます。

したがって、法人事業税や法人住民税の還付はされません。ただし、法人住民税は、法人が赤字になった翌期から支払う法人の住民税を軽減させることができます。(繰越控除)

③法人住民税の繰越控除の申告には別途書類提出が必要

繰越欠損金による法人税の還付には 欠損金の繰戻しによる還付請求書の提出が必要であると前述しましたが、法人住民税の繰越控除にも別途書類提出が必要となります。

申告時期: 法人税の「欠損金の繰戻しによる還付」を受けた翌期の確定申告時

必要書類:「控除対象還付法人税額又は控除対象個別帰属還付税額の控除明細書」(第六号様式別表二の三)

控除対象還付法人税額又は控除対象個別帰属還付税額の控除明細書で

検索をすれば、各都道府県で書式がホームページで公開されています。

例えば、東京都の2019年の控除明細書はこちらです。このような書式で申告するのだな、くらいの参考にしていただければと思います。

まとめ

今回の記事では赤字(欠損金)で前年の法人税が還付できる3つの条件と注意点を紹介させていただきました。法人税を還付することは前期が黒字で、今期が赤字である資本金1億円以下の法人であれば、可能です。

ただし、申告・提出する書類もあることや、還付される法人税だけでなく繰越控除する法人住民税があるため、安易に自分で計算をして還付額などを期待しないほうがいいことを注意点として上げました。

この法人税の還付で悪化した経営状況を改善するための資金として活用することもできますので、前期たくさん税金を支払ったのに、今期は赤字になってしまいそうだというときは、早期に顧問の税理士さんへ相談をしましょう。

滅多にありませんが、決算書だけを安い金額で作ってもらっている法人の方などは、税理士さんもアドバイスできないというようなこともありますので、このようなことは経営者の皆様から自ら申し出をしていくことが大切だと思っています。

在庫の処分による処分損・廃棄損を計上して節税をする3つの方法

決算対策の中で、条件がそろえば優先してほしい節税の1つが「在庫の処分による処分損を計上すること」です。

決算対策では現金を使わずに、損金を作り、現金(流動資産)の比率を高めて資金繰りを改善できることが理想です。

この記事でご紹介する「在庫の処分による処分損を計上すること」はまさに現金を使わずに損金を作ることが可能な手段です。

ここからはこの「在庫の処分による処分損を計上すること」を3つの方法に分けてご説明していきます。

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在庫の処分による処分損を計上することで節税を行う3つの方法

経営者の皆さんは、会社に当面販売の見通しの経っていない在庫を所有してはいませんか。

決算対策を行う上で、なるべく資金を使わずに損金を計上したいと考えている経営者の方は多いですが、まさにこの「当面販売の見通しのない在庫」を処分することで、それが実現できます。

ただし、在庫の処分には3つの方法がありますので、それを1つ1つ具体的に説明していきます。

  1. 決算セールによる在庫の処分
  2. 商品評価損による損金計上
  3. 商品の廃棄による在庫の処分 続きを読む