売上割戻しの未払い計上を行うことで決算対策・節税するポイントと注意点


節税を検討するときに真っ先に思いつくのは経費を計上することですが、ここでは売り上げの一部を還付する「売上割戻しの未払い計上」による決算対策・節税をご紹介します。

商品を大量に購入してもらった得意先に、一定の割合で売上代金の一部を返す契約をしていた場合、その返還する金額は損金に計上できます。

また、売上金の一部を返還する時期については、契約内容によって変わります。

それでは、ここから売上割戻しの未払い計上による節税の説明をしていきます。


【契約書に取り決めがある場合】

《原則》 販売した事業年度

【契約書に取り決めがない場合】

《原則》 売上割戻の金額の通知または支払いをした事業年度

販売日の属する事業年度の経費にできるため、期末に未払い計上できます。契約書がない場合にも販売した事業年度に売り上げの割り戻しで未払い金として計上して経費にすることもできます。

ただし、売り上げの割り戻しとして、その資金を期末までに支払うことが前提です。加えて、その金額の算定基準が社内で統一されており、期末に未払い計上して確定申告提出期限までにその金額を通知、継続適用することが必要です。

それでは、ここからは売上割り戻しの未払い計上で節税をする上での注意点をお伝えしていきます。

【注意点1】契約書の内容は以下の6つがポイントになります。

  • 売上割戻しの契約書はあるか
  • 売上割戻しの基準日はいつか
  • 売上割戻しの単価、販売数の基準はいくらか
  • 売上割戻しの通知と支払時期はいつか
  • 契約書に売上割戻しの条項がない場合には交際費認定されないよう注意

【交際費認定のリスク】売上割戻しの資金で得意先を接待したり、商品券などを渡したりするような場合は、交際費となりますので注意が必要です。

【注意点2】 契約内容以外の注意点は以下の3点

  • 期末までに相手先から売上割戻しの請求書を受領できるか
  • 売上割戻しの基準日が期末でなければ合理的な算定基準で金額を計算
  • 売上割戻しは現金で支払う

*売上割戻しを接待あるいは3000円以上の贈答品で行った場合には交際費となってしまいます。

【売上割引、売上値引、返品は未払い金の計上にはならない】

売上割引は、初めから割引をして売り上げているため、未払い金の計上にはなりません。

売上値引きは、商品・サービスの不良によるされる売り上げの減少ですので払い金の計上にはなりません。

返品は、返品された事業年度で処理をしますので、未払い金では計上できませんし、今期の決算対策にはなりません。

売上割戻しの計上時期

法人税法基本通達2-5-1 

販売した棚卸資産に係る売上割戻しの金額の計上の時期は、次の区分に応じ、次に掲げる事業年度とする。

(1) その算定基準が販売価額又は販売数量によっており、かつ、その算定基準が契約その他の方法により相手方に明示されている売上割戻し 販売した日の属する事業年度。ただし、法人が継続して売上割戻しの金額の通知又は支払をした日の属する事業年度に計上することとしている場合には、これを認める。

(2) (1)に該当しない売上割戻し その売上割戻しの金額の通知又は支払をした日の属する事業年度。ただし、各事業年度終了の日までに、その販売した棚卸資産について売上割戻しを支払うこと及びその売上割戻しの算定基準が内部的に決定されている場合において、法人がその基準により計算した金額を当該事業年度の未払金として計上するとともに確定申告書の提出期限(法第75条の2《確定申告書の提出期限の延長の特例》の規定によりその提出期限が延長されている場合には、その延長された期限とする。)までに相手方に通知したときは、継続適用を条件としてこれを認める。

法人税法の内容は以上です。

まとめ

売上割戻しとは、一定期間に多額の取引があった得意先に対し売上代金の一部を返戻することをいい、会社からすると経費になります。得意先との契約内容によって計上時期が変わりますし、現金以外で支給する場合には交際費と認定されてしまう可能性もあります。

顧問税理士と相談し、契約書の内容や社内での取り決めと割戻しの支払い方などに関しては慎重に検討していきましょう。

買掛金と未払い金を計上することで決算対策として節税する方法と注意点

決算対策で問題となるのは、節税対策はしたいが手元に現金がなく対策ができないということです。

本日ご紹介するのは、簡単にいうと買掛金・未払い金で必要なものを購入し、手元の資金を使わずに決算対策をして節税を行う手法です。


1.買掛金の計上

買掛金として計上するものは以下の2種類です。

  • 仕入高
  • 外注費

買掛金とは、代金を後払いで仕入れた場合の仕訳で使う勘定科目です。短期的な借り入れを仕入れ先からしている状態とも言えます。「売掛金」と同じく掛取引の仕訳を行います。買掛金は代金を後で支払う義務がある「仕入債務」のため、貸借対照表の負債に含まれます。買掛金の仕訳は、以下のようになります。

掛けで仕入れたときの仕訳

例)商品を10,000円で仕入れて代金を掛けとした場合

借方   貸方  
   仕入     10,000円    買掛金    10,000円 

仕入の掛取引のため、「買掛金」を使います。負債が増えたため、貸方に買掛金を記入します。仕入という費用が増えたため、借方には仕入を記入します。

仕入高とは

仕入高とは、販売するための商品で、売上高に対応する原価の仕入分をいいます。

仕入高計上の注意点

仕入の計上基準としては、実務的には検収基準と支払基準があります。一般的には、検収基準を採用しています。

検収基準とは、 商品等の販売を行う企業における売上高の計上タイミングを示す基準であり、商品等が相手先で 注文の際の品質条件・数量・仕様に合っていると確かめた上で、受け取ることでを計上する方法のことです。

支払基準は商品や材料の購入代金を支払った時点で仕入の計上をする方法です。

決算締切日の特例

  • 期末に商品を仕入れる習慣があること、または他に相当の理由があること
  • 締切日は事業年度終了の日以前おおむね10日以内の一定の日であること
  • 毎期(少なくとも3年間)は継続して適用すること

2.未払金の計上

未払金として計上するものは以下の4種類です。

  • 決算賞与
  • 未納の税金
  • 社会保険料
  • 労働保険料

決算賞与

決算賞与は当年度の利益が出ている場合に、通常の賞与に加えて、決算期に従業員へ利益を還元するため支払う賞与です。

通常の賞与は、実際に支払った日の属する事業年度の損金となりますが、決算賞与については、一定の条件を満たせば、未払金として計上が可能となります。

実際の従業員への決算賞与の支給は、翌期の最初の月の月末までに支払います。例えば、12月決算法人であれば、1月末までに支払うことになります。

ただし、決算賞与を支給することは決算期末までに従業員へ通知することが必要です。

未納の税金

決算期末までに支払っていない税金でも、以下の6種類の税金は未払金として損金計上することができます。

  • 消費税
  • 不動産取得税
  • 自動車税
  • 固定資産税
  • 都市計画税
  • 利子税

社会保険料・労働保険料

社会保険は、健康保険と厚生年金です。労働保険料は 労災保険と雇用保険です。

社会保険は、当月分を翌月に支払うため、決算月の分は翌事業年度の支払いとなりますので、 決算月の分は未払計上することが可能です。

当然ですが、社会保険料は会社負担分のみを未払計上します。

3.未払い費用の計上

買掛金・未払い金だけでなく、「未払費用」も損金として今期の損金で計上できます。 「未払費用」 として計上する項目は、以下の4点です。

  • 支払利息
  • 従業員に対する給料
  • 水道光熱費
  • 通信費

支払利息

借入金の支払利息も、後払いであれば未払計上できます。

例えば、返済日が毎月5日の場合は決算月の6日から末日までの期間に対する利息は当期の費用となるため、未払費用として計上することができます。

まとめ

買掛金と未払金を計上することで決算対策として節税することは、短期的に仕入れ先などから借り入れをして商品を仕入れているような手法です。

しかし、何でも決算期に買掛金・未払い金として計上して節税ができるわけではなく、ある程度計上できる項目は決まっています。

また、毎期のように継続的に買掛金と未払い金で処理を行わなければ税務否認を受ける可能性もありますので、しっかりと顧問税理士さんへ確認をして、買掛金・未払金を計上した節税を行いましょう。

2019年4月11日の法人保険(節税保険)に関する国税庁のパブリックコメント3つのポイント

2019年4月11日に国税庁より、法人保険に関するパブリックコメントが発表されました。概要については、以下の通りとなっています。

原文は【 2019年4月11日のパブコメ 】で確認ができます。

法人契約の定期保険の損金算入割合を変更

法人を契約者とし、役員または使用人を被保険者とする、保険期間3年以上の定期保険、第三分野保険

(改正案) 保険期間開始~一定期間
  ・ピーク時の解約返戻率が50%以下:全額損金扱い 
  ・   〃  50%超70%以下:60%損金扱い
  ・   〃  70%超85%以下:40%損金扱い
  ・   〃  85%超:ピーク時の解約返戻率の9割が資産計上

いずれも保険期間の4割にあたる期間での損金の扱いです。保険期間の4割を超える期間(後半6割)の経理処理は前半4割期間で資産計上された保険料分も損金処理するため、100%を超える損金処理を行うケースも出てきます。

最重要◎既契約への遡及はなし

*上記内容は、正式な通達が出されるまで確定されたものではありません。通達は2019年5月を予定しているようです。

今回の国税庁のパブコメの内容は複雑な面もあるため、3つのポイントに絞って解説します。


1.過去遡及はしない

通達が出る日まで、(販売ベースでは2019年3月まで)に加入した法人保険に関しては今まで通りの仕訳処理が行われる予定です。

したがって、今までに加入した法人保険はこれから加入する法人保険よりも同じ内容でも損金に算入できる割合が大きくなりますので、事情がない限り大切に継続をすることをおすすめします。

2.今までの全損定期保険は40%損金に

 今まで節税保険として販売されてきた全額損金扱いの定期保険は解約返戻率は加入後7~10年後に80%前後ありました。被保険者が35歳未満では90%を超える設計も可能でしたが、多くは返戻率80%前後の設計でした。

つまり、今まで販売されてきた全損的保険を今後加入しても損金算入は保険料の40%にしかなりません。

今回の損金算入率の考え方は「実態に即している」ことが前提です。

これは保険料の計算に起因しています。保険料は加入期間のリスクを平均して決定しますので、保険加入当初は保険期間の最後よりも割高な保険料を支払っていることになります。

この割高な保険料を解約返戻金(責任準備金)として将来の保険金支払いのために積み立てられていくという仕組みで商品設計がなされています。

したがって、この将来の保険金支払いのためにしはらった保険料のうち、割高な部分の保険料は損金にせず、資産と見なして資産計上するという実態に即した経理処理のルールに変更するということです。

3.掛け捨ての保険、期間の短い保険は今までどおり

今回の改定は解約返戻率に焦点を絞って改正を行うものです。

解約返戻金のない保険、あるいは解約返戻金が発生しても解約返戻率50%未満の保険に関しては、今までどおり全額を保険料として損金処理を行えます。

また、保険期間が3年未満の保険契約も今回の改定には影響はありません。

今後の保険会社の動き

今回国税庁が発表したパブコメは今までのケースでは、そのまま通達になっています。したがって、今回の改正ルールにしたがって、保険商品を開発していくことになります。ここで節税研究会で勝手にこんな保険が出てくるのではないかという予測をしてみたいと思います。

予測1.解約返戻率70%に配当金を加えて、保険料の85%が契約者に返戻される60%損金保険

今後の主流は、返戻率は70%以下でそこに配当金を加えることで、契約者には保険料の85%程度は返戻できる決算対策保険が出てくると予想します。この保険設計が得意な保険会社は、やはり日本生命ではないでしょうか。昔から予定配当金として設計書にも載せてきた会社ですから、このような配当金で契約者に還元する保険を作るのはお手の物でしょう。

もともとプラチナフェニックスという全額損金の定期保険を販売していた決算対策保険の火付け役は日本生命です。災害保障をメインとした設計のため加入もしやすく、まさに決算対策のためだけに開発された法人保険と考えてよいでしょう。

この保険を開発した日本生命は、第一生命と子会社のネオファースト生命で販売をしていた全損保険のシェアを止めるためにも、今回国税へリークしたのではないかという噂があります。

これも、この改正によって、得意の配当金を活用した法人保険を販売できるということも考えていたのではないかと疑っています。

予測2.解約返戻率85%で配当金を加えるか、三大疾病保障などの保障を充実させた長期平準定期保険を40%損金算入の法人保険として販売

損金割合は40%なので、損金の魅力は落ちてしまいますが、今までの長期平準定期保険は50%損金(1/2損金)なので、損金割合は10%しか下がっていません。

ここで配当金をのせて、実際に契約者へ100%程度返戻する法人保険を作ることで、今までのような長期平準定期保険の販売が可能となります。

また、ソニー生命のリビングベネフィット(三大疾病・障害介護保障付きの定期保険)のように、死亡保障以外の保障を充実させた長期平準保険を販売することで、解約返戻率は85%以下ではあるが、40%損金で長期の保障と積み立てを手に入れることができるという設計の法人保険です。

このような保険は配当金を出すことが難しい株式会社の保険会社が設計していくのではないかと思います。日本生命のように相互会社の保険会社であれば、配当金を出すことが難しくないので今までのような災害保障をメインとしたいわゆる節税保険で勝負してくるのでしょう。

節税研究会としては、この保障を重視した長期平準定期保険であれば、経営者の保障も確保でき、積み立ても行えながら、保険料の40%を損金算入できるということで、このプランを推奨したいと感じています。

予測3.まさかの期間3年未満の全損保険

私の予測ですが、少しやんちゃな外資系保険会社(FWD富士生命、NN生命、マニュライフ生命)は、期間3年未満であれば、解約返戻率には関係なく全額損金の保険が作れますので、ここをついて期間3年未満の全額損金保険を開発するのではないかとも感じています。

加入時から1年後は解約返戻率0%、2年後は解約返戻率75%などの保険です。

ないとはおもいますが、2年11か月の保険をつくり、3年目返戻率を80%にして、3年後は失効をおすすめするような保険になるのではないかともおもっています。

この保険は、さすがに国税庁を刺激するので、可能性は低いとは思いますが、アグレッシブな保険会社であればこのような保険も開発するのでは、と感じています。また、この期間の短い保険は、責任準備金を計算するのが困難ですし、保険料が安価になってしまうので、おそらくこのような商品は販売しない可能性が高いと思います。

まとめ

今回のパブコメの内容通り、国税庁から通達がでれば、今までに加入した法人保険(節税保険)の経理処理は変更ありません。

また、これからの法人保険は損金算入割合は40%~60%に下がってしまいます。

ただ、今回の改定は本来の保険の実態に即した経理処理に変更されますので、結果的にはいいことだと思っています。

というのも、法人保険の中でも節税保険として販売されてきた保険は、保障もまともになく、返戻率が100%未満のものがほとんどなので、結果的に法人の資産を減らしてしまう上に、資金繰りを悪化させてしまい、万が一のときも保障がないということで、あまりおすすめできるようなものではありませんでした。

被害者が減るという意味でも今回のパブコメ通りに変更されるのは賛成ですが、保険会社も新しい節税保険の開発を行っていくと思います。

もし開発がされるとしても、本来の保障を重視した保険開発がなされることを期待したいと思います。