決算期の変更で節税するための3つの手続きと注意点

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節税というと決算期に翌期に必要なものをあらかじめ購入したり、従業員さんへ決算賞与を支給するなどのキャッシュを使う手段を思いつきますよね。

しかし、期中に大きな利益が上がった場合、あるいは大きな利益が上がることが見えている場合は、簡単な節税対策ではなかなか利益対策はできません。

このような場合に、キャッシュを使わずに節税ができる有効な手段が「決算期の変更」です。

決算期の変更は簡単な話で、期中で決算を切り、法人実効税率の高い経常利益800万円未満の部分で2回決算を行うことで、低い法人実効税率(約25%)で法人税を支払うことができます。

加えて、大きな利益が計上される直前に決算を切ることで、翌期に計上される大きな利益は1年間時間をかけて節税対策をとることができるのです。

ただし、この決算期の変更による節税には、3つの正しい手続きを行い、注意点を考慮したうえで実行しなければ、損をしてしまうリスクもあります。

今回はこの決算期の変更による節税の具体的な説明と、大切な3つの手続きと注意点をご紹介していきます。

決算期の変更について

決算期とは、法人の損益の計算を1つに区切るための期間です。

決算日は法人であれば自由に決定することができます。

そして、法人が設立した後もいつでも好きな時に好きな日にちを決算期とすることができます。

この決算期の変更によって、節税ができる理由とその手続き方法、注意点までこれからご説明していきます。

決算期の変更によって節税ができる2つの理由

決算期を変更してどのような場合に節税になるのかを具体的な数字を用いて説明していきます。
平成30年3月決算の法人を前提として、以下のような利益を出しているものとします。

平成29年1月までの利益 400万円
平成29年2月時点の利益 800万円
平成29年3月時点の利益 1,600万円
平成29年4月~平成30年3月の1年分の利益 -1,000万円
平成29年3月~平成30年2月の1年分の利益 -200万円

法人税の税率は所得が400万円までは20%、800万円までは25%、800万円を超える分は30%で計算します(平成30年4月時点のおおよその税率)。

決算期が3月の場合 決算期を2月に変更した場合
2年間のトータル利益 600万円 600万円
平成29年の法人税 420万円 180万円
平成30年の法人税 0万円 0万円
節税金額 240万円

このように2年間のトータル利益は600万円とどちらの場合も同様ですが、決算期を2月にした場合は240万円も法人税が軽減され、節税となりました。

これは平成29年3月の利益の分が翌年に繰り越され、法人税の税率が所得400万円までは20%、800万円までは25%であるため、法人税が減るシミュレーションとなりました。

また、このケースでは翌年の平成30年分の利益はマイナスで結果的に節税になりましたが、翌期の利益は簡単に予測できるものではありません。

ただ、利益が大きく上がる直前に決算期を変更して、精算しておくことで、1年間かけて大きな利益対策を行うことが可能です。

したがって、突発的に大きな利益が発生することが判明した場合に、この決算期の変更による節税という手段を知っておくだけで、いざというときに役に立ちます。

中古自動車などの減価償却資産を購入するなど、1年間かけて行える節税方法も押さえておくことで、この決算期の変更による節税の効果をより高めることができます。

それでは、ここから決算期の変更で節税するために行う具体的な手続きについて解説していきます。

決算期の変更によって節税するための3つの手続き

決算期を変更することによって節税するための手続きは以下の3つです。

  1. 定款を変更する
  2. 臨時株主総会を開く
  3. 移動届出書を提出する

それでは1つずつ解説していきます。

1.定款を変更する

定款の変更を行うにはまず、定款のルールを抑えておく必要がありますので、以下に記載します。

定款のルール

定款には、次の「絶対的記載事項」を記載しておく必要があります。

絶対的記載事項を記載せずに行われた会社設立は無効になってしまいます。

<絶対的記載事項>

  • 目的
  • 商号(会社名)
  • 本店の所在地
  • 設立に際して出資される財産の価額またはその最低額(資本金)
  • 発起人の氏名または名称及び住所
  • 相対的記載事項:金銭以外の財産を「現物出資」した場合はその者の氏名または名称、当該財産及びその価額、その者に対して割り当てる設立時発行株式の数を記

上記の絶対的記載事項に変更がある場合は、株主総会、臨時株主総会を開いて決議を取る必要があります。

決算期に変更がある場合も同様です。

2.臨時株主総会を開く

定款を変更するには、株主総会での特別決議が必要

定款の変更では、株主総会での特別決議が必要となります。
特別決議では行使できる議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成がなければ否決されます。
株主総会での資本的多数決は「1株1議決権」です。つまり、その株式会社の株を多数所有している大株主に、決定権があるということです。ほとんどのケースでは社長が株を多数所有していますので、今回のような決算の変更による節税を中小企業で行う場合は、社長の一存で決定できるケースが多いということになります。

定款変更にあたって登記申請が必要な場合は、株主総会で変更した内容の議事録を法務局に提出します。
そして、変更が認められた場合、定款と共に株主総会の議事録を保存します。

ただし、実務上では実際に開かなくても書面でのやり取りだけでも可能です。

3.異動届出書を提出する

ちなみに今回のテーマである決算月の変更では、登記申請の必要はありません。ただし、税務署への「異動届出書」の提出に株主総会の議事録を添えておく必要があります

異動届出書は、所轄の税務署および県税事務所及び市町村役場に提出します。なお、この届出書を、所轄税務署、県税事務所及び市町村提出用にそれぞれ作成し、いずれかに提出すれば、それぞれの機関で共有して保管されます。

異動届出書は以下の国税庁のHPリンクにエクセルデータのひな型があります。

*異動届出書に関する国税庁のHPリンクはこちら

決算期の変更による節税の3つの注意点

決算期の変更によって節税を行う場合には以下3つの注意点を理解した上で、判断をしていく必要があります。

  1. 納税が前倒し
  2. 税理士報酬
  3. 消費税

それでは、この3点を1つずつ解説していきます。

1.納税が前倒しになる

「決算期を変更する=今期決算を早期に切り上げる」ということになります。

早期に決算を切るということはそこで精算をして、法人税を早期に支払う必要が出てきます。

したがって、一時的にキャッシュが必要となりますので、資金繰りが悪くなってしまいます。

ただし、決算期の変更によって結果的に節税が実現できれば、資金繰りは決算変更前よりも改善されます。

変な話ですが、毎月決算を切りあげて精算することもできますが、決算の費用もかかりますし、毎月決算を行っても、年間で支払う税金は変わりません。実際に毎月のように決算期を変更する方はいないとは思いますが、今回紹介している決算期の変更による節税にはなりませんのでご注意ください。

2.税理士報酬を余分に支払う可能性がある

決算期の変更をして、決算を行う月数は減っても決算書作成による税理士報酬はその都度発生します。

決算期の変更による節税を実現するにあたって、頻繁に決算期変更を行っては利益対策ができず意味がありませんが、もし1年間で何度も決算を切ってしまっては、多くの決算書作成費用がかかってしまいます。

もちろん、節税を行うために1度だけ決算期を変更するだけでしたら、数か月決算期を早めるだけですので、税理士報酬の費用の問題は発生しません。

3.消費税が増える場合がある

消費税は「起業してから2年前の売上が1,000万円以下である」場合は免除されます。

消費税免税の条件に該当する事業主は、以下のような1年度の売上1000万円以下で、かつ資本金が1000万円以下の事業者です。

  • 起業してから2年目までの事業者
  • 個人事業者が法人になってから2年目までの事業者
  • 2年前の売上が1,000万円以下の事業者

したがって、消費税の納税義務の判定で、短い決算期の間に多く課税売上が計上されている場合には消費税が免除にならないことがあります。

ただし、決算期の変更による節税を行う場合は、決算期を短く切ることになりますので、売り上げ1000万円を超える可能性は低くなるでしょう。

ただし、決算期の変更による節税をしようとしたら、消費税は早期に決算を切ってしまい、この2年度の消費税の軽減期間が短くなりますので、結果的に消費税の納付額は増えてしまったということはありえます。

まとめ

決算期の変更による節税は、大きな利益が発生する前に決算期を切り上げることで、翌期1年間かけて利益対策ができることができます。

加えて、2年度の利益を平準化することで法人実効税率の低い経常利益800万円未満におさえることで、法人税の支払いを軽減させ、節税を実現することもできます。

しかし、決算期の変更には、株主総会での決議を取るなどの所定の手続きが必要となりますので、その具体的な手続きとその流れをおさえておく必要があります。

決算期の変更による節税は、キャッシュを必要としない節税ですので、非常に有効な手段ではありますが、納税時期が早まること、税理士報酬が増える可能性があること、創業2年目までの事業者であれば、消費税の免税の金額が少なくなってしまう可能性があることなどのデメリットもあります。

これらのデメリットにも注意したうえで、突発的な高額利益の対策として有効に決算期の変更による節税を行えるよう準備しておきましょう。

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