法人・個人事業主の方は「節税」の手段として、経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)が有効だという話を聞いたことがあるかもしれません。
経営セーフティ共済は、年間240万円(月20万円)・累計800万円までを損金計上しながら積み立てを行うことができる商品です。
しかも40か月(3年4か月)積み立てをすれば、それ以降いつ解約をしても掛け金の100%が返還される商品で、無限に利益を繰り延べることができる共済です。
この商品の概要についてはネットでもよく取り上げられてはいますが、今回は節税研究会として具体的に3つの節税手法をご紹介いたします。
この共済の4つのデメリットにもふれて解説しますので是非最後までご覧いただければと思います。
はじめに:経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)とは
経営セーフティ共済とは、取引先企業が倒産して売掛金の回収ができないときに、掛け金の10倍を上限として無利息・無審査で中小機構基盤整備機構がお金を貸してくれるという共済です。
しかし、実際に売掛金が回収できないケースは建設業でしかなかなか聞かない話ですし、もし取引先が倒産して共済からお金を借りることができても、掛け金分は保証金として返還されませんので、実際は掛け金分が保証金として回収されてしまい、10%の利息を取られてしまうことになります。
そこで、この経営セーフティ共済は、掛け金の全額が損金に計上できて、かつ3年4か月掛ければ、掛け金の全額がいつでも返還できるというメリットを活用して利益の無限繰り延べ商品として活用しているのが実態です。
デメリットは。減額ができないため資金を引き出すには、解約をするしか方法はありませんので、積み立て上限の800万円を預けていた場合は、解約をすることで800万円の資金が入金されると同時に800万円の雑収入が発生してしまう点です。
この特性を踏まえたうえで、会社経営でこの経営セーフティ共済を活用した3つの具体的な活用方法をご紹介いたします。
1、決算月に次年度分まで前納して最大240万円を今期の損金に計上できる
経営セーフティ共済の掛け金の上限は、毎月20万円つまり年間240万円で累計で800万円となります。
(前納によって800万円を支払ってしまうこともできますが、1年分しか損金計上することはできません。)
したがって、経営セーフティ共済を決算月に翌年分の12か月分をまとめて支払った場合は、その全額が損金計上となります。(最大240万円)
これは、例えば経常利益が1040万円以上出そうな会社の場合ですと、ちょうど法人事項税率が高い部分(経常利益800万円を超える利益に対して法人実効税率は約33%かかる)の利益を繰り延べできますのでとても有効な利益の繰り延べ手段といえます。
よく勘違いされていますが、経営セーフティ共済は短期前払い費用の特例による損金算入とは異なります。
経営セーフティ共済の掛け金も毎月同じ金額を支払う性質のものですので、実は短期前払い費用の条件に当てはまりそうなのですが、このルールに適用してしまうと、今年度分を月払いで決算月まで12か月分支払い、決算月に翌年の12か月分を年払いで支払ってしまえば、24か月分の480万円を今期の損金計上にしてしまえることになります。
しかし、経営セーフティ共済では短期前払い費用の特例で前納掛け金を全額損金計上できるわけではなく、年間240万円(12か月分)までが損金計上となります。
以下がその根拠の文章です。
*租税特別措置法関係通達66の11-3 中小企業倒産防止共済事業の前払掛金
中小企業倒産防止共済法の規定による共済契約を締結した法人が独立行政法人中小企業基盤整備機構に前納した共済契約に係る掛金は、前納の期間が1年以内であるものを除き、措置法第66条の11第1項第2号に掲げる掛金に該当しない。
措置法第66条の11第1項第2号とは、「特定の掛け金を実際に支払った日が属する年度に損金計上を認めるよ」というもの。しかし、租税特別措置法関係通達66の11-3によって、1年分を超える損金算入は認められませんということになります。
これは経営セーフティ共済の約款にも記載されています。
また、継続が厳しいときは掛け金を減額することもできますし、逆に期の途中から掛け金を増額することも可能ですので、かなり融通が利くのも特徴です。
資金繰りの面でも翌年に前納できないのであれば、前納しなくても「短期前払い費用の特例」のように翌年も前払いで前納しないならば前年の損金算入は遡って認めませんということにもなりませんので安心です。
2、経営セーフティ共済の掛け金の分だけ役員報酬を減額する
役員報酬も経営セーフティ共済も掛け金は損金計上されますが、役員報酬は個人に対する所得税・住民税および法人と個人に対する社会保険料の負担が発生してしまいます。
よって、経営セーフティ共済の掛け金分の役員報酬を減額することで、個人の所得税・住民税、そして法人個人の社会保険料を削減することができます。
ちなみに、この経営セーフティ共済の解約金を将来役員退職金あるいは従業員退職金、あるいは企業の赤字の穴埋めなどに活用して、節税を実現することで法人と個人の資産を本来負担すべきだった税金の分だけ増やすことが可能です。
経営セーフティ共済は法人税の対策だけに目が行きがちですが、このような活用方法で個人の所得税・住民税そして法人と個人の社会保険料負担まで増やすことができます。
3、任意の貸付制度の活用で現金のように活用する
節税するために掛け金を前納して、キャッシュがなくなってしまうことや、翌期に業績が低迷して節税どころではなくなってしまったということは往々にしてありうることです。
しかし、経営セーフティ共済では任意の貸付制度が存在していますので、資金繰りに困れば、支払った掛け金から貸し付けを受ければいいだけの話です。これは生命保険の契約者貸し付け制度に似ていますが、取られる利息はかなり少なくて済みます。(保険会社の貸付利率は年利2~3%ですが、経営セーフティ共済では年利0.9%です。)
以下、経営セーフティ共済の貸付条件です。(倒産時の貸付とは異なります。)
【貸 付 限 度 額】機構解約時の解約手当金の 95%
【貸付金の使途】事業資金(設備資金、運転資金)
【貸 付 利 率】年 0.9%(平成 29 年 4 月 1 日現在)
【利息支払方法】貸付時に一括前払い
【貸 付 期 間】1 年
【担保・保証人】不要
【償 還 方 法】期限一括償還
解約手当金の95%まで貸してくれて、しかも年利0.9%なのであれば、預金と考えてもいいレベルではないですか。
800万円のうち、95%の760万円を年利0.9%で借り入れても年間の利息はわずか68,400円です。引き出し手数料だと考えると少し高いかもしれませんが、一方では誤差の範囲内ともとらえられます。しかも前納をして掛け金を支払っていれば0.09%ですが割引も効いてますので。(平成29年10月までは0.5%割引でしたが。)
詳しくは、経営セーフティ共済の制度のしおりでご確認ください。
このように、ただの利益の繰り延べではなく、貸し付けを上手に利用することで、解約をして雑収入を発生させてキャッシュを戻すようなことをしなくても済むので、資金繰りに困っても利益を繰り延べ続けられる仕組みになっている優れた制度なのです。
ここでは、他のサイトではあまり記載されていないような経営セーフティ共済を活用した節税の手法をご紹介しましたが、以下のような経営セーフティ共済の節税に関するデメリットもありますので、ご参考にしていただければと思います。
デメリット1:積み立てた解約手当金の減額はできない
経営セーフティ共済は非常に優れた共済制度ですが、実は減額ができないことが一番のデメリットになります。
ここでいう減額とは掛け金の減額ではありません。掛け金は柔軟に調節することが可能です。
実は、生命保険の解約返戻金を少しずつ取り崩せるような意味での減額が経営セーフティ共済はできないのです。
つまり、据え置き続けるか、解約をするかの2択になってしまうということです。
例えば、今期の決算で200万円程度赤字になりそうなので、経営セーフティ共済を200万円減額をして引き出そうとしてもそれはできないので、解約をして800万円丸まるが雑収入になってしまうということになります。
生命保険では、雑収入を200万円分だけ計上するためにその分保険金を下げて減額をして利益を調節といったことはできますので、この点が唯一節税の面ではデメリットなのかもしれません。
ただし、資金繰りが厳しいという状況に関しては上述していますが、貸し付けをうけることでキャッシュはが入りますので、その点はご安心できるかと思います。(しかも貸し付けを受けているだけですので、もちろん雑収入は発生しません。むしろ利息が損金計上されます。)
デメリット2:実際に取引先が倒産をしてもあまりお得ではない。
経営セーフティ共済は節税での活用が目立ちますが、表向きには取引先の倒産による損失をカバーできるように、無利息で積み立てた掛け金の10倍までを無担保で借り入れできるという保険です。
しかし、ここで共済金はもらえるわけではなく、あくまでも借り入れできるだけですし、掛け金は一切もどってきません。
例えば800万円掛け金を積んでいて、8000万円の共済金を借り入れすると、掛け金の800万円は消えますので、実際には10%の利息を一括で最初で支払っているにすぎないのです。
無担保・無保証・無利子でも、掛け金が戻ってこないのであれば、それって相当なダメージですよね。
銀行から借りられるのであれば、銀行から借りたほうがいい気がしてしまいます。
実際には主要取引先が倒産してしまえば、銀行が見放してお金を貸してくれないということは往々にしてあり得ますのでありがたいといえばありがたいかもしれませんが、一概にいい制度というわけではなさそうです。
以下は念のため、共済金の貸付に関する条件を記載しておきました。
【貸付限度額】8,000 万円
回収困難な売掛金債権等の額と掛金総額の 10
倍の額とのいずれか少ない額
【共 済 事 由】取引先が倒産し売掛金債権等の回収困難が生じた
とき。
【貸 付 条 件】無担保、無保証、無利子
なお、貸付金額の 10 分の 1 に相当する額が納
付された掛金から控除されます。←ここが味噌です。
【償 還 方 法】
貸付額に応じて、
・5,000 万円未満 5 年
・5,000 万円以上 6,500 万円未満 6 年
・6,500 万円以上 8,000 万円以下 7 年
(据置期間 6 か月を含む。)の毎月均等償還
デメリット3:経営セーフティ共済に加入できない場合がある
医療法人は、オペレーティングリースなどの損金を計上できる投資ができないなどの制限があることは有名ですが、経営セーフティ共済に関しても同様に参加することができません。
ただし、医療法人でも定款で定めがない場合はオペレーティングリースにも出資しているところは実際多いですが。あとは医療法人の資産管理法人で活用していたりなどもあります。
また、歯科医師や獣医師の場合は株式会社で病院運営をしている場合には、経営セーフティ共済もオペレーティングリースも活用できます。
加えて、経営セーフティ共済では資本金の金額や出資総額、常時使用する従業員数の規模で加入条件があり、大きな法人は中小企業とはいえないのでかけてはいけませんという定めがあります。したがって、ある程度大きな法人では活用できませんので、活用できなくなるほどの規模になる前に加入はしておくべきでしょう。
以下は加入資格に概要する各業種の規模の一覧です。
業 種 ・資本金の額または出資の総額・常時使用する従業員数
製造業、建設業、運輸業その他の業種 ・3億円以下・300 人以下
卸売業 ・1億円以下・ 100 人以下
サービス業 ・5,000 万円以下・ 100 人以下
小売業・ 5,000 万円以下・ 50 人以下
ゴム製品製造業(※) ・3億円以下 ・900 人以下
ソフトウェア業または情報処理サービス業 ・3億円以下・ 300 人以下
旅館業・ 5,000 万円以下 ・200 人以下
(※)自動車または航空機用タイヤおよびチューブ製造業ならびに工業用ベルト製造業を除く。
そして、最後に意外な盲点は、設立1年未満の法人はかけることができないということです。
設立1年目から利益が出て、節税を検討するという会社さんは非常に多いです。
しかし、設立して1年未満ですと、経営セーフティ共済は加入ができないことになっています。
これは大きなデメリットで、生命保険やオペレーティングリースなどの民間の利益繰り延べ商品・節税商品では該当しないルールです。
したがって、加入できる法人であるかの確認はしっかりとしておくべきではあります。
たまに加入できると思い込んで決算対策をしていたら最後に加入できないことがわかって、節税対策に失敗してしまうということはよく聞く話です。
ここで例外としては、個人事業主として行っていた事業を法人化して継続して行っている場合には、申請をすれば法人設立1年目でも経営セーフティ共済に加入できますので、中小企業基盤整備機構に確認はしておきましょう。
デメリット4:決算月ぎりぎりでの加入ができない
これで加入できずに失敗をしている経営者の方や経理担当の方はよくお見掛けします。
実は経営セーフティ共済を決算月に前納して損金計上したいという場合には、原則当月の5日までに申し出をしていなければ加入が間に合いません。
したがって、決算月に入ったらすぐに節税対策の判断をして、銀行あるいは商工会議所へ駆け込みましょう。
TKCの税理士や日税サービス・損保ジャパン日本興亜の営業社員も一応経営セーフティ共済の窓口にはなっていますが、対応が遅かったり、他のサービスの売り込みが入ったりと、ストレスを感じることも多いと聞きますので、自社のメインバンクの担当あるいは支店へ電話をして、書類を用意しておきてもらいましょう。
経営セーフティ共済のしおりや約款では、5日までに申し込みと記載はありますが、実際は3週目でも銀行の窓口や商工会の窓口で半ば強引にねじ込めたというケースもありますので、5日を過ぎてしまってもあきらめずにコンタクトをとってみることをおすすめします。
まとめ
今回は、法人税の節税・利益の繰り延べとしてよく活用される経営セーフティ共済に関する3つの節税手法と4つのデメリットについて記載をしましたがいかがでしたでしょうか。
他のサイトでも経営セーフティ共済の基礎知識に関しては記載がされていましたので、少しマニアックな現場での知識も織り込んで記事にしてみました。
経営セーフティ共済は、その活用1つで、中小企業の財務対策・節税対策・資金繰り対策の強い味方になりますので、ご検討をされている方は早めに内容を理解して、銀行・商工会議所へ足を運んでみましょう。
また、経営セーフティ共済は前にも記事にしていますが銀行のスコアリングを傷つけないように工夫をして計上することもできますので、よく知っている顧問の税理士さんなどにも早めの段階からご相談してみることをおすすめします。